
津に用があり久しぶりに訪問した。用はあっという間に終わり、まだ10時30分。平日の午前中という貴重な機会、そのまま帰るのも味気なく感じ、一度は電車に乗ったが、津駅で降りた。
橋上駅舎の西口の改札を出たところには、寿司屋があった記憶がある。いつの間にか閉店してしまったようだ。
最初は駅前にあるうなぎ屋、大観亭へ行こうと思っていた。津で働いていたことがあり、おすすめの飲食店をよく聞かれる。いつも紹介していたが、自分では行ったことがなかった。これからも聞かれそうなので、一度くらいは行かねばという気持ちであった。しかし時間はまだ10時40分。開店は11時。時間をどうやって潰そうかと駅前を見渡してみる。
西口は、駅前ビルのある東口と比べると静かだ。小さなロータリーには地元の人しかいないような落ち着きがある。時間を潰そうと、Google Map で喫茶店を探してみると、三重県庁の議会棟の中にある喫茶店マンドルーラのカレーがおいしいと出てくる。県庁の中なんて、こんな機会でもないと訪れることはできないだろう。すでに営業しているようなので、大観亭はまたの機会にして、喫茶店マンドルーラへ行くことにした。早速県庁や県議会のある方へ向かって歩き始めた。
歩いていくと、公園の中に錆が目立つSLが置かれていた。SLの前には遠足らしく色とりどりのリュックサックが並べられ、先生だけが荷物を見ていた。
続いて、県庁の駐車場の入口が見えてきたが、歩道らしきものが途中で途切れており徒歩で入っていいものか迷った。他にも入口はあるだろうと目星をつけ、先に進む。程なくして、県庁の敷地へ続く通用口のような階段が現れた。県庁の敷地に入ると少し緊張する。あまり歩いている人はいない。県庁に来たことは少ないが、市役所とはまた違った独特の空気がある。
Googleマップの示す場所まで来たものの、喫茶店らしきものは見当たらない。議会棟には、通用口のような入口があった。中は薄暗く、入っていいものか確信が持てない。
「特別警戒実施中」赤い文字が、入りにくさをさらに掻き立てる。
正面へ回ってみても、人の気配は少なかった。重厚な石のタイルも、建物の重々しさを強めている。中は薄暗くよく見えない。
あまりの入りにくさに、一度はそのまま通り過ぎた。
だが、ここで帰ったら後で後悔しそうな気がした。もう一度スマートフォンで場所を確認し、意を決して中へ入る。
中は驚くほど静かだった。外と同じく、人の気配は少ない。節電のために電気を節約しているとのポスターが掲示されていた。やたら薄暗い。外からよく見えなかったのはこのせいだろう。
警備カメラのモニターを見ている警備員が一人座っていたので、喫茶店の場所を尋ねると、警備員は声をかけられたことに少し戸惑ったようだったが、喫茶店の場所を教えてくれた。それは、建物の西側にあった。マンドルーラと店名の書かれたガラス戸が見つかった。
ドアを押して部屋に入ると、昔ながらの落ち着いた喫茶店という雰囲気で、白と黒のレトロな制服を着た女性スタッフが四人ほどいる。てきぱきとしているが、押しつけがましさはない。予約の札がいくつか並んでおり、そこは普通の喫茶店は少し異なる。客は他にはいなかった。
食事は11時からとのことで、まだ少し時間があるらしい。
「どうされますか?」
と聞かれたので、先にコーヒーを飲みながら待たせてもらうことにした。
ブレンドコーヒーを頼む。
小さな豆を炒った菓子が添えられていた。コーヒーは、昔ながらの穏やかな味だった。強い酸味も苦味もなく、まろやかで柔らかい。
コーヒーを半分飲み終えるころ、11時を少し回った時間でカツカレーが運ばれてきた。
カツとライスが大きな皿に載せられ、カレーは別の白い器に入っている。少し格式のある洋食屋のような出し方である。
まずはカレーだけを口に運ぶ。
非常にマイルドな味だった。フルーツを煮込んだような甘みがあり、辛さは控えめ。それでいて味に奥行きがある。
カツも良かった。衣はサクサクしているが硬さはなく、肉は柔らかい。油も良いものを使っていそうだ。添えられていたラッキョウが爽やかで甘味があった。福神漬けもついている。
食べている間、二人ほど客が入ってきた。見た限りでは職員ではなく、私と同じような一般客らしい。どうやら職員向け食堂は別にあるようだ。
途中、仕出しの予約の電話がかかってきていた。
県議会の中という場所から想像していたよりは、普通の店だった。静かな建物の奥で、昔ながらの喫茶店が変わらず営業している。そのことが何だか少し印象に残った。
食べ終わり、店を出る。帰りは裏手の通用口から外へ出た。
議会棟には、入る時ほどの重々しさは、もう感じなかった。再び駅まで歩いて戻る。
駅へ近づくと、うなぎを焼く匂いが漂ってくる。行ったことのない大観亭を紹介することは当分続きそうだ。
喫茶 マンドルーラ
三重県議会棟 1階





